痴漢の在宅捜査の流れ|実刑にならないために必ず必要な全知識
痴漢事件を犯した場合、通常、被疑者は警察署等で取調べを受けることとなります。 しかし、必ずしも、留置場などの刑事施設…[続きを読む]
テレビやネットのニュースでは「容疑者逮捕」や「書類送検」という言葉を目にしない日はないといっても過言ではありません。
犯人と思われる人が捕まり、容疑も固まったのに「どうして逮捕ではなく書類送検なのか?」と、疑問に思われることもあるのではないでしょうか。
また、ご自身や知り合いが警察の捜査対象となった場合、書類送検されるとどのような扱いを受けるのか不安に思われるかもしれません。
そこで、このコラムでは、
について解説します。
警察から検察に刑事事件が引き継がれる送検に関する法律の規定と、送検の形態である書類送検と身柄送検の意味について解説します。
日本では、第一次的な捜査を「警察」が担い、第二次的な捜査と刑事訴追を「検察」が行うのが一般的です。
そのため、警察の犯罪捜査後、検察へ事件を引き継ぐのが必然的な流れとなり、これを「検察官送致」といいます。
検察官送致のことをマスコミでは「送検」と呼んでいますが、正式な法律用語ではありません。
しかし、「送検」も一般的に定着している用語なので、本コラムでも「送検」と呼んで解説します。
送検に関する規定は、以下、刑事訴訟法246条(本文)に置かれています。
罪を犯すと逮捕されるのが原則と思われるかもしれません。
しかし、実務では逮捕せずに通常の生活を送りながら、必要に応じて呼び出して捜査を行うことも少なくありません。
逮捕せずに捜査することを在宅捜査といいますが、この場合は、供述調書などの証拠書類や証拠物だけが検察に送られます。これが書類送検です。
一方、逮捕された場合は、証拠書類などとともに身柄も検察庁へ送られて、検察官の取り調べを受けることになります。これを書類送検と対比して身柄送検ということもあります。
検察庁の統計によると、2019年に全国の検察庁に送検された刑事事件(交通事件を除く)は約28万9000件でしたが、内訳は以下のとおりでした。
書類送検の件数は、別事件で逮捕勾留された状態で余罪が書類送検されるケースも含まれており、純粋な在宅捜査だけではありませんが、多くの事件が書類送検により処理されているのが実情といえます。
書類送検されるのか逮捕されるのかはどのようにして決められているのでしょうか。
の順を追って解説します。
警察が犯罪の発生を認知して捜査に着手し送検するまでの流れは、次の三つのパターンがあります。
犯罪を行っているところや犯罪を行い終わった直後は、逮捕状がなくても誰でも逮捕することができます。これを現行犯逮捕といいます。
現行犯逮捕の時点では、犯人であることは明らかであっても、身柄拘束をして捜査する必要があるかまでは不明なことも少なくありません。
そのため、警察署に連行されて取り調べを受けたあと、送検前や送検後すぐに釈放されて在宅捜査に切り替えられることもあります。
身柄拘束が続く場合は、現行犯逮捕から48時間以内に身柄送検されることになります。
現行犯逮捕以外のケースでは、警察が被疑者(容疑者)を特定すると、逮捕するか在宅のまま捜査を続けるか捜査方針が決められます。
逮捕の必要性があると判断された場合、裁判所へ逮捕状を請求し、裁判官が逮捕を認めた場合は逮捕状が発付されます(通常逮捕)。
なお、急速を要する場合、逮捕した後に裁判所に逮捕の事後承認を受ける緊急逮捕という手続きもあります。
いずれにせよ、逮捕の必要性があると裁判所が認めた場合、48時間以内に身柄送検され、その後も引き続き身柄が拘束される公算が高くなるといえるでしょう。
逮捕の必要性がないと判断された場合、必要に応じて警察に呼び出されて取り調べを受けることになります。
逮捕された場合は身柄送検まで48時間という時間の制約がありますが、在宅捜査の場合はそのような制約はありません。
従って、書類送検されるまで数週間から数箇月にわたって在宅捜査が続くことも少なくありません。
逮捕の必要性は、「逃亡のおそれ」と「証拠隠滅のおそれ」の2点の要素から判断されます。
仕事や家族構成などの「生活状況」と「刑事処分を免れる意図」が判断要素となります。
定職に就いて家族と同居している人と、単身で定職のない人を比較すると、後者のほうが逃亡のおそれは高いといえます。
また、重大事件で重い刑が予想されるケースや、前科があり起訴されると実刑が予想されるようなケースでは、刑事処分をおそれて逃亡する可能性が高いといえるでしょう。
逃亡のおそれは属人的な要素がポイントとなるため、同じような事件であっても、人によって逮捕されるか否かの判断が異なることになります。
被害者や目撃者に働きかけて自分に有利な証言をさせることや、証拠物を隠したり改ざんしたりする可能性が判断要素となります。
例えば、防犯カメラの映像が重要な証拠となり、すでに警察の手元にあるようなケースでは証拠隠滅の余地が低いといえます。
一方で、目撃証言や被害者の証言が重要な証拠となるケースでは、働きかけによって証言を変えさせる余地があり、証拠隠滅の余地があるといえるでしょう。
なお、犯行を自供して反省している場合は、その後の証拠隠滅の可能性も低いといえます。
書類送検後であっても、逮捕の必要性が生じた場合は逮捕される可能性があります。
逮捕の必要性は送検前の状況だけで判断されるわけではありません。
送検後であっても、
など逮捕の要件を満たした場合は、その後の逮捕状が発付されて逮捕される可能性は少なからずあります。
先ほどご紹介した刑事訴訟法246条には、「但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。」という例外規定があります。
一定の軽微な刑事事件は、送検せずに警察限りで事件を終了させることが法律上も認められているのです。これを微罪処分といいます。
微罪処分になる基準は公表されていませんが、警察庁の統計によると、2019年に微罪処分とされた事件の罪名は、暴行罪、窃盗罪、占有離脱物横領罪が大部分を占めています。
占有離脱物横領罪とは、放置自転車など持ち主のもとを離れた物を自分の物として使うような罪です。
これらの罪で被害が軽く弁償をしていること、犯行が悪質ではないことなどが微罪処分の条件になるとみられます。
なお、逮捕状により逮捕された事件は微罪処分にはならず、現行犯逮捕された事件でも微罪処分となるのは非常に稀です。
書類送検された場合、その後の手続きと刑の重さがどうなるのかについて解説します。
書類送検されると、検察官は証拠を検討して起訴処分とするか不起訴処分とするかを判断します。
刑事裁判を開く公判請求と、罰金や科料が相当な場合は書面審理で刑が決められる略式命令請求があります。
公判請求されると法廷で審理が行われ、有罪か無罪、有罪の場合は刑の重さが言い渡されることになります。
略式命令請求されると簡易裁判所で罰金や科料の金額が決められて、裁判所から略式命令書が郵送されます。
不起訴処分には、証拠が十分に集まらず犯罪の嫌疑がないか不十分な場合と、検察官の裁量で起訴を見送る場合(起訴猶予)などがあります。
検察に送致された事件のうち、起訴処分とされる事件の割合は3割から4割で推移しており、半数以上の事件は検察官の裁量により起訴が見送られているのが実務の動向です。
なお、身柄送検後引き続き身柄拘束された場合は、最大20日間という勾留期間の制約があるため、通常はその期間内に起訴または不起訴の処分が決められます。
書類送検ではそのような制約がないため、検察官の処分が決まるまで数箇月を要することも少なくありません。
逮捕するか書類送検するかは、逃亡や証拠隠滅の防止という観点により決められるもので、刑の重さとは別次元の問題です。
また、逮捕自体に刑罰や制裁の目的があるわけでもありません。
しかし、重い刑が予想される事件では逃亡のおそれがあり、逮捕の必要性が認められやすくなるのは先ほど解説したとおりです。
そのため、書類送検された事件のほうが比較的刑が軽い、あるいは起訴猶予処分となりやすい傾向があるのは事実です。
しかし、書類送検された事件で懲役刑の実刑判決が言い渡されることも決して珍しいことではありません。