実名報道の基準|実名報道されない人とされる人、法律上の問題について解説

監修
弁護士相談Cafe編集部
本記事は痴漢・盗撮弁護士相談カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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報道機関による犯罪の加害者および被害者の実名報道の是非は、しばしば議論の的となっています。直近では、京都アニメーションの放火事件において、報道機関が被害者について実名で報道したことが多くの批判を集めました。

また、未成年の加害者について実名で報道が行われた例もあり、その多くが社会的な議論を巻き起こしました。

  • そもそも報道機関は、なぜ犯罪の加害者や被害者を実名で報道するの?メリットあるの?
  • 実名で報道することに対して法律上問題はないの?おかしい!
  • 逮捕されて実名報道される人、されない事件の基準は?新聞に載らない事件がなぜある?

他にも、もし痴漢で逮捕されて、本人が実名報道が嫌だ!と思う場合に、事件を新聞に載せない方法や実名で報道しないように求める法律上の根拠はあるのでしょうか。

本記事では、こうした疑問点を含めて、犯罪の加害者および被害者の実名報道をめぐる様々な法律上の問題を中心に解説します。

マスコミ・新聞はなぜ実名報道をする?メリット・デメリット

テレビ局や新聞社などの報道機関は、犯罪の加害者や被害者について、自らの判断で実名報道することがあります。

すべての事件において実名報道が行われるというわけではなく、またどのような事件で実名報道が行われるかについての明確な基準はありませんが、重大事件や著名人の起こした事件など、「社会的に関心が高い」と報道機関が判断した事件に関して、実名報道がなされることが多い傾向にあります。

報道機関が実名報道をする意図と、憲法上の根拠について以下で解説します。

実名報道についての各報道機関の主張

2019年に発生した京都アニメーション放火事件における被害者の実名報道に関して、新聞各社は以下のようにコメントしています。

「朝日新聞は事件報道に際して実名で報じることを原則としています。犠牲者の方々のプライバシーに配慮しながらも、お一人お一人の尊い命が奪われた重い現実を共有するためには、実名による報道が必要だと考えています。それが、社会のありようを考えるきっかけになると思っています」(2019年8月3日朝日新聞朝刊1面)
「毎日新聞はこうした事件・事故の犠牲者について、事実を正確に報じて被害者の無念や遺族の悲しみを伝えるため、実名報道を原則としている」(2019年8月3日毎日新聞朝刊4面)

これらのコメントからは、報道機関としては、重大事件については「より実態に迫った真実性の強い記事」を提供する方がメリットであると考えており、それを実現するために実名報道を行っているということが読み取れます。

憲法上の根拠|実名報道によるメリット・デメリット

実名報道は、「報道の自由」と「知る権利」という、互いに表裏一体である憲法上の自由・権利を根拠として行われています。また、それぞれメリット・デメリットも存在します。

(1) 報道の自由|マスコミ等

日本国憲法21条1項は表現の自由を保障しています。そして、報道機関(マスコミ)による事実の報道については、国民が国政に関与するために重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものであり、表現の自由の一環としてその自由が保障されるものとされています。

(2) 知る権利|国民

「知る権利」については憲法において直接的に明記されてはいません。

しかし表現の自由を受け手の側から再構成した権利として、憲法上保証されているものと解されています。

実名報道されない人・されない事件|制限する法的理由

実名報道が報道の自由・知る権利という憲法上の自由・権利を根拠として行われているとはいっても、常に報道機関側の主張が正当と認められるわけではありません

一定の場合には実名報道が違法になる場合があります。つまり、新聞に実名が載らない事件、実名が表沙汰にならないニュース等が出てくると言うことになります。

プライバシー権・知る権利・報道の自由の対立を調整

実名報道の制限を考える上で、最も重要なのが「公共の福祉」(日本国憲法13条)という概念です。

「公共の福祉」とは、ある人が持つ権利を行使することで、別の人の権利が制限されてしまうという関係にある場合に、双方の権利を調整する必要があるということを意味しています。

実名報道の場合、報道機関の「報道の自由」、国民の「知る権利」、加害者・被害者の「プライバシー権」が対立していますので、両者の調整をする必要があります。つまり、事件の重大性や実名報道により発生することが想定される弊害など、個別具体的な事情を総合的に考慮して、どちらを優先すべきかという判断をすることになります。

少年法と少年犯罪|未成年の加害者について

年齢が20歳未満の加害者については、原則として実名報道が避けられることになっています。これは、少年法61条により、罪を犯した時点で年齢が18歳だった少年など(=20歳未満)は実名報道が禁止されていることによります。

ただし、少年法61条に違反した場合でも、刑罰や行政処分等の制裁が加えられるわけではありません。

重大性の高い事件について、報道機関が少年法61条の規定にもかかわらず、実名報道を行ったという事例があり、大きな社会問題となりました。

加害者の実名報道は名誉毀損に該当しないか

加害者の実名報道は名誉毀損に該当しないのか、という論点についても解説します。

刑法230条1項は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」名誉毀損により罰せられる旨を規定しています。

これによると、実名報道はまさに事実を摘示して加害者の名誉を毀損するものとして、名誉毀損に該当するようにも思われます。

しかし、刑法230条の2第1項には、公共の利害に関する場合の特例が定められています。つまり、①公共の利害に関する事実の報道であること、②報道の目的が専ら公益を図ることにあること、③その事実が真実であることの3つの要件を満たす場合、例外的に名誉毀損が成立しないものとされています。

犯罪行為に関する事実は、刑法230条の2第2項で「公共の利害に関する事実とみなす」とされているので、加害者の実名報道は①を満たすことになります。よって、②③が満たされる限り、名誉毀損は成立しないということになります。

実名報道の基準は?|警察・マスコミ・新聞

報道機関による実名報道は、どのような事件について行われるのか、その基準や事件の特徴について解説します。

明確な基準はない

先に説明した通り、実名報道がなされるかどうかについては明確な基準はなく、マスコミなど報道機関各社の判断により実名報道をするかどうかを決めているというのが実情です。

実名報道されやすい事件の特徴

実名でのニュース になる事件とならない事件がありますが、実名報道される事件の特徴としては、①重大事件、②著名人が関係する事件の2つがまず挙げられます。

①重大事件|窃盗罪や痴漢は?

たとえば殺人や強盗に代表される凶悪犯罪事件や、犯人が依然として逃走中である事件など、社会的な不安を引き起こすという意味において社会の関心が高い事件については、実名報道がされやすい傾向にあります。

逆に言えば、「窃盗罪や痴漢」など、件数が多く比較的軽微な犯罪や、既に犯人が犯罪事実を認めていて、在宅での捜査・起訴が行われている事件などは、実名報道はあまり行われない傾向にあります。

②著名人が関係する事件

著名人が関係する事件については、ゴシップ的な意味合いにおいて社会の関心が強いと考えられるため、報道機関も世間の耳目を集めることを意図して、実名報道を行う傾向にあります。

加害者のその後の影響|社会復帰・再就職

加害者の逮捕、起訴や犯罪事実について実名で報道された場合、その加害者について、その後どのような社会的影響が発生するのでしょうか。

いったん実名報道がなされてしまうと、加害者の名前は刑事事件を起こした張本人としてあらゆる媒体に記録・保存されてしまいます。これらのすべてを抹消することは不可能ですし、また事件の風化にも一定の時間がかかります。

そのため、たとえば加害者が釈放後に「社会復帰・再就職のための就職活動」を行う際に、名前を検索することで犯罪歴が会社に知られてしまったり、周囲の人々から犯罪者として認識されて疎遠になってしまったりなど、実名報道の本人には大きな社会的ハンディキャップが課せられてしまいます。

もちろん、全員が犯罪等の経歴を重く見て加害者を遠ざけるということではないですが、実名報道がなされる前よりは活躍の場に制限が加わってしまう可能性が高く、再就職・社会復帰も難しくなります。

ただ状況によっては下記のように、逮捕歴を削除依頼することも可能です。

事件を新聞に載せない方法ってあるの?

それでは、マスコミや新聞など報道機関により実名報道がされてしまった、またはこれから実名報道がされようとしているという状況において、本人である加害者または被害者は、報道機関に対して実名報道をやめるよう要求するためにとることのできる法律上の方法はあるのでしょうか。

一つ考えられるのは、「民事保全法」に基づいて報道の差し止めの仮処分を裁判所に申し立てるという方法です。しかし、仮処分を申し立てるには本案の訴訟(実名報道の場合は、報道機関に対する損害賠償請求訴訟)を提起する必要があり、本案の訴訟で勝訴する見込みがなければ、保全の必要性なしとして仮処分の申立ては棄却されてしまいます。

仮処分の申立てができない場合は、報道機関に対して直接交渉により実名報道の取りやめを訴えていくしかありませんが、報道機関側としては実名報道の方針を曲げる理由に乏しいため、実際に説得に成功する可能性は低いでしょう。

冤罪・誤認逮捕であることが判明した場合、補償を受けられるのか?

では、実名報道後に冤罪・誤認逮捕であることが判明した場合に、実名報道をされた加害者は何らかの補償を受けることができるのでしょうか。

刑事補償

犯罪の加害者として公訴提起されていた者が無罪の裁判を受けた場合には、刑事補償法に基づき、身柄拘束をされていた期間に対応する補償を受けることができます。刑事補償の金額は、1日当たり1,000円から12,500円の間で、裁判所の裁量によって決定されます。

しかし、刑事補償は実名報道がされたか否かにかかわらず請求することが可能ですので、実名報道の代償という意味合いは持ちません。

報道機関に対する損害賠償請求は可能?

報道機関に対して民事上の損害賠償を請求するということも考えられますが、結論としては難しいケースが多いと言わざるを得ません。

実名報道について加害者が報道機関に対して損害賠償請求を行う場合には、法律上の根拠は報道機関の不法行為ということになります。不法行為の成立には、「故意または過失により違法に被害者の権利を侵害した」ということが要件となります。

先に説明したとおり、犯罪事実の実名報道については、①報道の目的が専ら公益を図ることにあること、②その事実が真実であることの2つが満たされる限り、公共の利害に関する場合の特例により名誉毀損に該当しないこととされています。

よって、上記の2つが満たされる場合には、報道機関による実名報道は違法ではなく、当然報道機関の故意または過失も認められないということになります。

ただし、たとえば報道の内容が、最初から加害者とされていた者を犯罪者であると決めつけるようなものであったり、人格攻撃を含んでいたりするような場合には、加害者とされていた者の権利を違法に侵害するものとして、不法行為に基づく損害賠償請求が成立する余地はあります。

このように、冤罪のケースで実名報道によって加害者が被った経済的・社会的不利益を補填する仕組みは十分ではないと言えるでしょう。

まとめ

犯罪に関する実名報道は、報道の自由・知る権利とプライバシー権という、憲法上きわめて重要度の高い自由・権利が対立する問題ですので、その是非については激しい論争が繰り広げられています。

実名報道が本人にもたらす社会的影響は甚大ですが、報道機関は報道の真実性などの観点から実名報道を志向する傾向にあります。

もし痴漢・強制わいせつなど犯罪の嫌疑をかけられ、そのことを実名で報道されてしまった場合には、弁護士などの専門家に相談して、少しでも自らの自由・権利を回復するために何ができるかを検討しましょう。

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