「痴漢を疑われたらまず逃走する」は本当に正しいのか?

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線路逃亡

春、痴漢事件が増える時期とも言われています。事実、最近は痴漢事件のニュースが相次ぎ、中でも容疑者が線路に飛び降り走って逃走するという案件が後を絶ちません。

「痴漢を疑われたらまず逃げる」この考えは本当に正しいのでしょうか?

1.痴漢事件の線路逃走事案について

痴漢行為を行ったのではないかと疑われた男性が、線路を逃走して、いまだ特定されていないという事案が最近相次ぎました。 ニュースによると、3月には、池袋駅、赤羽駅、お茶ノ水駅、4月には、新宿駅、両国駅、板橋駅で発生したとのことです。

4月25日には、板橋駅から一旦、逃走した男性が、脱ぎ捨てたコートのポケットに入っていたものや、目撃者の証言から身元が判明し、翌日に逮捕されました。

5月12日には、JR京浜東北線の上野駅で痴漢行為を疑われた男性が上野駅近くのビルから転落死する事件が起こりました。さらに、5月15日には、東急田園都市線の青葉台駅で、痴漢行為を疑われた男性が、駅員を振り払って線路に飛び降り、電車にはねられて死亡しました。

そして、5月18日には、JR京浜東北線の川口駅で痴漢行為を疑われたと勘違いした男性が駅のホームから線路に降りて逃走を図りましたが、鉄道営業法違反で現行犯逮捕されました。

2.線路逃走の代償

2-1.自分自身の生命・身体の危険性

痴漢を疑われたら、「逃げなければ逮捕される」「冤罪でも有罪にされる」という認識の強さが、線路に飛び降りてまで逃げるという選択肢へと追い込んでいると言われています。

しかし、絶対に線路に降りてはいけません。線路に立ち入ってはいけない一番の理由は、当然のことながら、危険だからです。

テレビのニュースでも再三言われていますが、線路脇には、送電線があり、感電する危険性があります。そして、もちろん、電車に轢かれる危険性もあります。自分の生命を危険にさらしてまで逃げるべきではありません。死んでしまったら、冤罪を晴らすことさえできなくなります。

2-2.線路に降りた場合の刑事罰

・鉄道営業法違反

鉄道営業法37条では、「停車場その他鉄道地内にみだりに立入たる者は10円以下の科料に処す」とされています。なお、明治に定められた法律であるため、科料が10円となっていますが、現在は、罰金等臨時措置法第2条第3項及び刑法17条が適用されて、1,000円以上10,000円未満になります。
金額は少ないですが、「科料」も刑罰であることに変わりありません。

・往来危険罪

刑法125条では、「鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期懲役に処する」とされています。レールの上に障害物を置くことも往来危険罪に当たるとされていますので、レールの上を自分自身で走ることもこの往来危険罪に当たると判断されるこの往来危険罪は、罰則が重いので、よほど悪質なケース以外では、適用されていないようです。

・威力業務妨害罪

刑法234条では、「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)による」とされています。

このように、痴漢が冤罪だとしても、線路に降りた時点で鉄道営業法では有罪ですし、場合によっては、往来危険罪、業務妨害罪でも有罪になりえます。つまり、別の犯罪で前科を作ってしまうことになります。
実際に、板橋駅での痴漢を疑われ、逮捕された男性は、鉄道営業法違反でも取り調べを受けていますし、川口駅で痴漢を疑われたと勘違いして逃走し、鉄道営業法違反で現行犯逮捕された男性は、その日は釈放されましたが、翌19日に、威力業務妨害罪で逮捕されたようです。

2-3.鉄道会社からの損害賠償請求

線路に降りることにより、鉄道会社は、付近の電車を緊急停止させなければなりません。これだけでもダイヤに乱れが生じます。もし、死亡事故になると、その後処理のために、振替輸送なども手配しなければなりません。線路に立ち入ることによって、発生した損害は、本人もしくは、その相続人に損害賠償請求されます。

3.痴漢を疑われたら、逃げる方がいいのか?

上記のとおり、線路に逃げることは絶対にしてはいけません。では、線路に降りるのではない別の方法であれば、「痴漢を疑われたら逃げた方がいい」のでしょうか?

確かに、現在の刑事司法制度には問題がありますし、「痴漢を疑われて逮捕されたら最後、仕事も家族も失ってしまう」と言われている現状からは、逃走したほうがいいという意見があるのも理解できます。

しかし、その場は逃げられたとしても、警察は捜査を継続します。電車が満員になるような時間帯では、乗客も多いですから、逃走しようとしても、取り押さえられることもあるでしょう。また、至るところに防犯カメラがあり、だれでも携帯電話やスマートフォンで簡単に撮影できる現代の環境では、一旦、逃走に成功したように思えても、その後に特定されて、逮捕されることもありえます。

そして、逃走後に逮捕された場合には、痴漢したかどうかという事実はどうであれ、「やましいことがあるから逃げた」と捉えられる傾向が強いですし、逃げたという事実により、反省をしていないとされ、情状面でも不利になる可能性があります。

4.日本の刑事司法制度に目を向けるとき

刑法

4-1.「逃げる方がいいのか?」という議論は根本解決にならない

満員電車で通勤している男性にとってはまさに「明日は我が身」ですから、ならば痴漢を疑われたら結局どうすればいいのか、特効薬を教えてほしいと考えるのは当然です。
しかし、特効薬があるなら、そもそも、このような出来事が相次ぐはずはないのです。

なぜ、「痴漢を疑われたら、逃げた方がよい」という意見があるのか、それは、日本の刑事司法制度が、冤罪を生みやすい構造になっているからです。他人事と思わずに、日本の刑事司法制度そのものに問題があることに目を向けなければならないのです。

4-2.密室での取り調べ

自分の言うことを否定され続けるという経験をしたことがあるでしょうか?「やっていないことを自白するはずがない」と考える人もまだまだ多いようですが、人間の精神は、それほど強いものではありません。

かつて、弁護士に対して、「先生が面会に来てくれて、ほんとによかった。警察は、自分の言うことを何一つ取り合ってくれなくて、しんどかった。先生が親身になって聞いてくれたから、それだけで救われた」と言っていた被疑者がいました。それほど、密室で自分の話を否定され続けるということは、精神的にかなりつらいことなのです。そのつらさから逃れるために、警察官の言うことに迎合して、自白したり、自分に不利なことが書かれている供述調書に署名捺印してしまったりするということは起こり得ることなのです。

冤罪事件に遭った人たちは、取り調べの可視化を訴えています。他の多くの国で取り調べの可視化は実施されていますし、取り調べに弁護士が同席できる国もあります。しかし、日本では現在でも、全事件でのすべての取り調べの可視化にすら至っていません。

特に、痴漢事件は、条例違反もしくは、強制わいせつ罪になるのですが、このような裁判員裁判対象事件ではない事件では、可視化が進んでいません。

4-3.検察官の手持ち証拠の全面開示

警察・検察は、国家権力をバックに捜査を行うことができます。これに対して、弁護士は一般人であり、捜査能力には格段の差があります。そして裁判では、検察官は、証拠を選んで出すことができます。

しかし、検察官が持っている証拠は、国民の税金によって集められたものです。被告人に有利なものも不利なものもすべて開示した上で、真実を追求していくべきではないでしょうか。しかし、現状、まだまだ検察官の手持ち証拠の全面開示には至っていません。例えば、検察官の手持ち証拠の中に被告人に有利な目撃証言などがあっても、検察官は提出しないでしょうし、被告人も弁護人もその存在すら知らないままになることもあります。

検察官の手持ち証拠の全面開示は、刑事司法改革として訴えていかなければならない問題です。

4-4.国連からの勧告も

多くの人が「犯罪を行った者は、必ず罰せられるべき」と考えることにも一理あります。被害者のためでもありますし「犯罪はきちんと罰せられている」ということが、今後の犯罪を抑止し、国民生活の安全を守るという効果もあります。しかし、そのためなら冤罪の発生もやむを得ないという状況は変えていく必要があると思います。

そして、国連の自由権規約委員会や拷問禁止委員会からも、日本の刑事司法制度について、「代用監獄の廃止」「証拠開示の保障」「取り調べの可視化」「死刑制度の廃止」などを強く勧告されているということにも目を向けてほしいと思います。

「警察に逮捕されるのは、悪いヤツだからだ。(捜査の過程で)どんな目に遭っても自業自得だ」というふうに考えずに、自分が、痴漢冤罪で逮捕されたら…と想像して、取り調べの可視化、証拠開示など刑事司法制度の改善を訴える人たちの主張を聞いて、国民的関心を高めてもらえたらと思います。

4-5.痴漢事件特有の問題点

痴漢事件は、被害者の供述が唯一の証拠となることが多い事件です。そして、被害者の供述が、「詳細かつ具体的」「迫真的」、「不自然・不合理な点がない」と裁判官が考えれば、被害者の供述は信用できるとして、有罪になる傾向がありました。

そんな中、最高裁判所は、平成21年4月14日の判決において、「満員電車内の痴漢事件においては、被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠である場合も多いうえ、被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合、その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められることから、これらの点を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる」と判示し、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を適用して、無罪判決の言い渡しをしました。

また、裁判官の補足意見の中には、「『被害者』の供述と被告人の供述とがいわば水掛け論になっているのであり、それぞれの供述内容をその他の証拠関係に照らして十分に検討してみてもそれぞれに疑いが残り、結局真偽不明であると考えるほかないのであれば、公訴事実は証明されていないことになる」「『被害者』の供述するところはたやすくこれを信用し、被告人の供述するところは頭から疑ってかかるこというようなことがないよう厳に自戒する必要がある」とも述べられており、裁判所も痴漢事件の問題点には目を向けています。

5.結局、現在のベターな方法は?

とはいえ、刑事司法制度は一朝一夕には改善されません。痴漢の疑いをかけられたとき、現在においてベターな方法は、否認すること、任意捜査には応じる旨を告げて逮捕されないようにすること、(逮捕されてもされなくても)弁護士にすぐに相談すること、取り調べの際には供述調書には、安易に署名捺印しないことくらいです。

逮捕されてしまうと、その後の勾留と合わせて、最大で23日間身柄を拘束されてしまいます。しかし、最近では、否認していても、逃亡のおそれなどがなければ、勾留までされず、任意捜査で取り調べを受けることも多いとも聞きます。任意捜査であれば、痴漢を疑われているということが会社にバレにくくなります。

また、その場で弁護士に連絡することができれば、被害者、駅員、警察官なども出方が慎重になるという効果も見込めます。
捕まったら有罪だ、と自分自身で決めつけず、そして線路に逃走するという方法だけは絶対に選ばないでください。

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