家族が「強制わいせつ」で逮捕された!逮捕後の流れと弁護士依頼
「強制わいせつ」…あまり聞きたくない言葉ですが、もしあなたの家族が「強制わいせつ」で逮捕されたら、どうしますか? 「…[続きを読む]
「ここにチカンがいます!」突然電車内で叫ばれ、駅員室に無理やり連れて行かれ、その場で現行犯逮捕されてしまいました。万が一そのような事態になった場合、自分の人生はいったいどうなるのか考え、絶望感や無力感に襲われることでしょう。
そのような時はまず、以下の問いをきちんと押さえることが大切です。
あまりにも当然すぎて見過ごされがちですが、実は非常に重要なことです。これらをきちんと知ることで解決の糸口が見つかるといっても過言ではないでしょう。
自分が犯した罪は何を調べる際に、法律上「痴漢罪」という名前の犯罪がないことにお気付きになることでしょう。
痴漢の場合、実際に適用されるのは「各都道府県の迷惑防止条例違反」もしくは、刑法上の「強制わいせつ罪」のどちらかとなります。
しかし、ここで1つ重要な疑問が浮かびます。この2つの罪名の「境界線」は何かということです。
今回は迷惑防止条例と強制わいせつ罪の差は何か、またそれぞれ時効があるのかないのか(無罪放免されるのか)、そして加害者として行うべき対策などについて紹介します。
特に迷惑防止条例といえば「みだりにうろつくこと」「名誉を害する事実を告げること」が告訴なしで逮捕することができるよう、現在東京都が改正の動きを見せているホットな条例です。また強制わいせつといえばTOKIOの山口メンバーが書類送検された罪でもあります。しっかり確認しておきましょう。
本題の前に、まず痴漢の定義を確認しておきましょう。厳密に言うと痴漢は「人の性的自由を侵害する罪」です。
簡単に説明すると「性的自由」とは、人は誰しも自分自身の性的接触・性的関係に関してコントロールする自由を持っているという意味です。
そして「侵害する」とは、相手の意に反して性的接触・性的関係を強いることにより、そうした人の自由を害するという意味になります。
痴漢に適用される罪状は、主に下記の2つです。
それぞれの罪と刑罰をしっかり確認していきましょう。
法令上、迷惑防止条例と強制わいせつ罪を区別する明確な基準は実は規定されていません。
一般的には、着衣の上から触れる行為は迷惑防止条例違反とされ、直接女性の体に触れる行為は強制わいせつ罪であると理解されているかもしれません。
しかし条文上はそのように規定されておらず、特に迷惑防止条例については下記のように規定されています。
つまり痴漢をする際に、下着の中に直接手を入れて身体に触れても、重い罪である強制わいせつではなく、軽い罪である「迷惑防止条例違反が適用される可能性」もあるということです。
しかし後でも述べる通り「強制わいせつ」との区別について、微妙となるケースがありますので早合点するのは禁物です。
(※余談ですが、犯罪の場所については「公共の場所又は公共の乗物」に限定されており、たとえば、TOKIOの山口メンバーのようにアパートの一室のようなプライベート空間での行為については、迷惑防止条例違反にはなりません)
次に強制わいせつ罪について見ていきましょう。後でも述べるとおり、強制わいせつ罪は迷惑防止条例違反より重い犯罪です。
刑法では、強制わいせつ罪について下記のように規定しています
実は上記の通り、強制わいせつ罪の規定には迷惑防止条例と異なり、「直接に人の身体に触れること」自体が犯罪の成立要件として規定されていません。
「それなら痴漢行為をしても、強制わいせつ罪が適用されないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし事はそう単純ではありません。
例として、トイレ内において被害者の着衣の上から臀部を手で撫で回した行為になど、実際、迷惑防止条例違反ではなく強制わいせつ罪が成立しています。
*名古屋高等裁判所平成15年6月2日判決
難しい言葉で言うと「性的自由の侵害の程度の高いもの」であれば、たとえ着衣の上から触れる行為でも強制わいせつ罪になることはありますし、痴漢がエスカレートして下着の中に手を入れてしまった場合はさらに適用されてしまう可能性が高くなるのです。
またもう1つのポイント「暴行又は脅迫」です。
痴漢はそもそも「暴行=殴ったり蹴ったりしない場合が多いですし、脅迫的な言動も(電車内のため)しないのが普通ではないか?」とお思いになるかもしれません。
しかし暴行という言葉はこの箇所では「同意なく故意に」という程度の意味で用いられています。
ですから単純に「殴ったり蹴ったりはしていないので強制わいせつではない」と主張しても下着の中に手を入れてしまった場合認められません。
なお、性交を行うか、もしくは性交以外のわいせつ行為を行うかでも罪名が変わります。
性交を行った場合は、いわゆる婦女暴行、強姦の罪に問われることになります。
最近、法改正があり「強制性交等罪」と名前は変わっています。
迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の違いは何より、その法定刑に大きな違いがあります。
迷惑防止条例の法定刑は、各都道府県の条例により異なるものの、概ね下記のとおりです。
他方、強制わいせつ罪の法定刑は、下記の通りで罰金刑は有りません。
したがって、強制わいせつ罪にあたる痴漢をしてしまった場合、起訴されれば、迷惑防止条例より重い刑が科せられる可能性が極めて高く、また、罰金刑が存在していないため、略式罰金の余地はなく、裁判所に行き裁判官の前にたち正式な裁判を経ることになります。
迷惑防止条例の場合は強制わいせつと違って在宅起訴・示談で不起訴となる場合も多いです。下記記事もあわせてご参照ください。
以前は、迷惑防止条例違反は親告罪でないのに対して、強制わいせつ罪は集団による犯行を除き2017年7月までは親告罪でした。
親告罪というのは、犯罪の性質上、加害者を処罰するための条件として、被害者側の処罰の意思を条件とするものです。
つまり告訴のない限り処罰することができません。
したがって、下着の中に手を入れたりして強制わいせつ罪にあたる痴漢をした場合、被害者との示談によって、告訴しない旨の合意あるいは告訴の取下げにより処罰を免れることが2017年7月まではできていました。
他方、迷惑防止条例違反は罪は比較的軽いですが非親告罪です。しかし必ずしも起訴されて裁判になったりするわけではありません。
迷惑防止条例違反の場合、被害者との示談により不起訴となるケースが数多く存在しています。
※2017年に法律改正が行われ、現在は強制わいせつ罪も迷惑防止条例違反も「非親告罪」に変更されています。被害者が告訴しなくても処罰されることになりました。しかし非親告罪であっても、被害者が被害届を警察に提出せず、捜査協力が面倒で去ってしまった場合、実際のところ不起訴になるケースも、迷惑防止条例の場合多いようですので、そのことも頭の片隅に入れておいてください。
痴漢が何罪であるのか、また迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の違いを解説して参りました。
痴漢をしていることが見つかってしまった場合、被害者との示談を成立させない限り、起訴により懲役刑が確定したり、もしくは罰金により前科(執行猶予)がついてしまいます。
また、もし冤罪であるのに痴漢を疑われてしまっても、焦らず、無罪を獲得する必要があります。
容疑者には黙秘権が保障されており、捜査機関の質問に全て答える義務があるわけではありません。また、痴漢の犯人として処罰するには、検察官が有罪・無罪を証明しなければならず、あなたが無罪であることを証明する必要はありません。
痴漢の場合、被害者の証言が唯一の証拠であることも多く、その場合には、裁判所は、慎重に被害者の証言内容の信用性を吟味して判断してくれます
*最高裁平成21年4月14日判決
日本の刑事裁判の有罪率は非常に高いと言われていますが、被害者の証言の信用性等を否定して、無罪判決の下された痴漢事件も複数あるので希望を捨てないようにしましょう。
*京都地裁平成27年3月20日判決、千葉地裁平成27年2月9日判決、さいたま地裁平成27年2月9日判決、京都地裁平成26年12月8日判決等
冤罪回避、示談成立、そして不起訴処分のためには、経験豊富な「痴漢に強い弁護士」の力を借りることが重要です。