刑法改正と性暴力|強姦罪・強制わいせつ罪などの法改正を解説

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刑法

かつて、性犯罪に関する刑法の規定には多くの課題があり、法律の見直しが叫ばれていました。その結果、国会で性犯罪の厳罰化を目的にした刑法改正が実現し、世間でも話題になりました。

2017年の改正により、性犯罪の刑罰が重くなり、女性だけではなく男性も被害者になり得るなど、いろいろな取扱いが変わりました。また、罪が成立する行為の範囲にも変更がありました。

そこで今回は、性犯罪の厳罰化の内容と影響について、解説します。

なお、2020年においても、性犯罪に関する規定の改正が議論されています。以下はその議論の一部です。

  • 暴行・脅迫要件の要否もしくは求められる暴行・脅迫の程度の緩和
  • 同意についての立証責任の転換
  • 被害者を「現に監護する者」でなくとも、一定の影響力を有する者による性交等を処罰する規定の創設
  • 性交同意年齢(現在は14歳以上)の引き上げ
  • 強制性交等の処罰対象行為の拡張

厳罰化された性犯罪とは?

性犯罪には、いろいろな種類(罪名)があります。代表的なのは以下の通りです。

  • 強制性交等罪(刑法177条)・・・暴行や脅迫の手段を用いて女性を姦淫した場合に成立(かつては強姦罪とされていた)
  • 強制わいせつ罪(刑法176条)・・・暴行や脅迫を用いてわいせつな行為を強要したときに成立
  • 迷惑防止条例違反・・・暴行や脅迫を用いなくても、相手にわいせつな行為をして迷惑をかけた場合に成立

この中で、大きな改正の対象となったのは主に「強制性交等罪」です。

この罪は、以前までは強姦罪とされていましたが、2017年に改正され罪名が変わりました。

また「強制わいせつ罪」についても親告罪から「非親告罪」にするという改正もされました。

親告罪とは、犯罪の被害者等が処罰を求める意思表示(告訴)をしない限り、犯人を起訴することができないとする制度です。

非親告罪とすることで、被害者の意思がなくとも処罰可能となりました。

強制わいせつ罪については、下記記事も併せてご参照ください。

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性犯罪の厳罰化の背景

そもそも、どうしてこのタイミングで性犯罪を厳罰化しようという動きが出てきているのでしょうか?

実は、以前の性犯罪は、刑法が制定された当初の時期から、大きく内容が変わっていません。

刑法が制定されたのは1907年(明治40年)ですから、今から数えると110年以上も昔です。

当時は、まだ家父長制と言って、父親が家の長であるという制度がとられていた時代です。
そこで、強姦罪の保護目的は、家父長制を守ることでした。

つまり、家人である女性が他の男から姦淫されると、他の男の子どもを妊娠する可能性があり、家父長の血統が乱れるおそれがあります。そこで、そのような血統を乱す行為を禁止して処罰しようというのが強姦罪の目的です。

つまり、強姦罪は、「女性の権利を守るための罪」というよりも、「家父長制を守るための罪」という性格を強く持っていたのです。

それでは、かつての強姦罪には具体的にどのような問題があったのでしょうか?強姦罪の問題点を確認していきましょう。

①刑が軽い

そもそも、「厳罰化」が叫ばれているくらいですから、元の刑が軽かったことが問題です。

強姦罪は、「魂を殺す罪」と言われます。強姦された被害者は、自分の尊厳を踏みにじられた気持ちになりますし、一生その思いをぬぐえないまま生きていくことになる人も多いです。周囲の誰にも相談できずに泣き寝入りしていることもありますし、自殺してしまう人もいます。

このように、重大な罪であるにもかかわらず、強姦罪の罪は、懲役3年以上の罪(有期懲役)です。これがどのくらい軽いかは、殺人罪や強盗罪と比べてみると明らかです。

・強姦罪・・・3年以上の懲役(強姦致死罪は無期懲役または5年以上の懲役)

・殺人罪・・・死刑または無期懲役または5年以上の懲役

・強盗罪・・・5年以上の懲役刑(強盗致死罪は死刑または無期懲役)

これは、刑法の制定当初、女性の権利などはさほど重視されていなかったことによるのでしょう。しかし、このような感覚は、現代の感覚にはそぐっていません。

②男性は被害者にならない

また、強姦罪が適用されるのは、「女性が妊娠する可能性のある姦淫行為を強要されたとき」のみでした。強姦罪は、女性であることが要件となっているので、男性には成立しません。

しかし、これは性被害の実態に合っていません。最近では、男性が同意していないのに、他の男性などから性交に類似した行為を強要されることもあり、男性も女性と同様に被害当事者となります。このことも現行刑法の問題点とされてきました。

③性交に類似する性行為は強姦罪で処罰されない

強姦罪は、女性器に男性器を挿入したときにしか成立しません。性交に類似する他の性的行為を強要しても、強姦罪にはならないのです。

しかし、肛門に男性器を挿入されたり口に入れられたりした場合でも、やはり同じように苦痛を感じるものです。

④子どもが親族から被害を受ける事例に対応できていない

最近は、親や兄などの親族が地位・立場を利用して、子供に性交を強要する事件も起こり、問題になっています。

しかし、子供と親と言った関係性から、犯罪を立証するのが困難であったり、心理的に抵抗できなかったりする等の問題から、強姦罪ではなく児童福祉法違反などしか成立せず、厳罰化すべきだという議論が起こっていました。

⑤親告罪であることの問題

強姦罪が親告罪である点も問題になっています。

親告罪とは、被害者が相手を刑事告訴しないと相手は起訴されないとする制度です。

告訴があれば加害者を起訴することができるのですが、強姦罪の被害を受けた女性が相手を刑事告訴すると、また問題が蒸し返されて裁判の場等で2次被害を受けることになりますし、プライバシーを守りたいという意識もあり、なかなか告訴に至らないのが現状です。

そこで、親告罪にしたままだと、適正に加害者を処罰できないという点も指摘されてきました。

改正によってどう変わったのか?

それでは、刑法改正によって性犯罪はどのように変わったのでしょうか?

以下で順番に見ていきましょう。

①罪名

今までは、暴行または脅迫を用いて姦淫した場合に「強姦罪」、その強姦行為によって相手をケガさせたり死亡させたりした場合に「強姦致死罪」「強姦致傷罪」でしたが、今回の改正後は「強姦罪」は「強制性交等罪」となり、「強姦致死傷罪」は「強制性交等致死傷罪」となりました。

「強姦」というのは、男性が女性に対し、強制的に「姦淫」をしたという意味なので、今回はそれより処罰対象を広げるために、罪名も変わりました。

そこで、今後「強制性交等罪」と言われたら、今までの強姦罪のことなのだと理解すべきということになります。

  • 強姦罪→強制性交等罪
  • 強姦致死傷罪→強制性交等致死傷罪

②刑罰の重さ

強制性交等罪になると、5年以上の有期懲役刑です。これは、現行の殺人罪と同じ下限です。

殺人罪には死刑や無期懲役刑があるので、強制性交等罪の方がかなり軽いのですが、それでも現行の3年以上の懲役よりは、かなり重くなっています。

強制性交によって相手をケガさせたり死亡させたりした場合には、6年以上の有期懲役刑となります。

現行の強姦致死傷罪の法定刑は5年以上の有期懲役刑なので、今より1年分だけ重くなっています。

ただ、強盗致死傷罪や殺人罪には無期刑や死刑があるのと比べると、これでもまだ軽いくらいという印象もあります。

わざと人を殺したり、強盗しているときに人を死なせてしまったりしたら死刑や無期懲役になる可能性があるのに、性交等を強制しているときに人を死なせてしまった場合には、有期懲役にしかならないということだからです。

ただ、現行より法定刑が重くなったという点では、一定の評価はできるでしょう。

改正前改正後
強制性交等罪(強姦罪)3年以上の有益懲役5年以上の有期懲役
強制性交等致死傷罪(強姦致死傷罪)5年以上の有期懲役又は無期懲役6年以上の有期懲役又は無期懲役

③処罰対象の行為

今回、強制性交等罪の新設により、処罰対象の行為が拡大されています。

今までは、「暴行または脅迫を用いて、男性が女性を姦淫した場合」にのみ強姦罪が成立していました。

性交類似行為も処罰対象となる

まず、今回の改正では、男性器を女性器に挿入するという性交だけではなく、それに類似する行為も処罰対象となりました。たとえば、男性器を肛門に挿入したり、口に入れたりする行為でも、強制性交等罪によって処罰されるようになりました。

男性も被害者になる

次に、今までの被害者は女性に限られていましたが、強制性交等罪では被害者が女性であるという要件は撤廃され、男性も被害者になり得るようになりました。

男性が他の男性に無理矢理肛門に男性器を入れられた場合などには、現行の強姦罪では処罰対象にならないのですが、強制性交等罪の場合には処罰対象となります。

④親族間の場合の罪を創設

刑法改正によって、新たに創設された罪があります。それは、「監護者性交等罪」と「監護者わいせつ罪」です。

これは、親などの監護者が、18歳未満の被監護者に、影響力があることに乗じて性交やわいせつ行為をしたときに成立する罪です。

実際に、父親や兄などから暴力を振るわれレイプされる子どもがいますが、強姦罪では処罰できていない現状がありました。

まず、こうした事案では、親子関係や兄弟関係を利用しているため、「暴行や脅迫」が手段として用いられないことが通例です。そこで、そもそも「強姦罪」や「強制わいせつ罪」自身が成立しません。

また、仮に強姦罪や強制わいせつ罪が成立したとしても、被害者と加害者が家族で、しかも加害者が監護者になっているのですから、被害者は加害者を刑事告訴しないことがほとんどです。

たとえば、父親が娘を強姦したとき、それが家族に知れたら、「父親を守るために、告訴は辞めておこう」「家の恥を明らかにするのは嫌だ」、という話になってしまうでしょう。その場合、強姦罪が親告罪になっているために、起訴ができませんし、また犯行が繰り返されることもあります。

そこで、今回の改正により、まず、親などの監護者が子どもなどの非監護者に性交その他のわいせつ行為をしたときには、暴行や脅迫による手段が用いられていなくても、犯罪が成立することとなりました。

なお、先述のように、監護者に該当しなくとも、一定の影響力を有することで性交等を行った者を処罰する規定の創設についても議論がなされています。

⑤親告罪から非親告罪へ

改正前の刑法では、強姦罪も強制わいせつ罪も「親告罪」でした。そのため、かつては、強姦の被害者が警察に訴えて告訴状を提出しない限り、加害者は処罰を受けることがありませんでした。

今回の法改正によって、強制わいせつ罪や強制性交等罪は、非親告罪となりました。これにより、被害者が告訴をしなくても、警察が捜査を進めて加害者が罰を受ける可能性が出てきます。

子どもが父親などからわいせつ行為をされたときには、子どもが刑事告訴しなくても、警察が父親を取り締まってくれるようになります。

⑥集団強姦罪の廃止

今回の法改正により、廃止された罪があります。それは、集団強姦罪と、集団強姦致死傷罪です。これは、複数の加害者が手段で被害者を強姦したときに成立する犯罪です。

法定刑は強姦罪より重く、集団強姦罪の法定刑は下限が懲役4年(有期懲役)、集団強姦致死傷罪の法定刑は懲役6年以上の有期懲役となっています。

ただ、強制性交等罪の新設によって、集団強姦や集団強姦致死傷の場面は、強制性交等罪や強制性交等致死傷の罪に包含されることとなりました。

そのため集団強姦を強制性交等罪と別異に取り扱う必要がなくなり、今回の法改正のタイミングで、廃止されました。

性犯罪の厳罰化のポイント

  1. 強姦罪から強制性交等罪へ
  2. 法定刑が重くなる
  3. 性交類似行為も処罰対象になる
  4. 男性も被害者になる
  5. 親族間のわいせつ事件では、暴行脅迫が不要になる
  6. 非親告罪になる

今回の性犯罪の厳罰化のポイントは、主に上記の6点です。押さえておきましょう。

まとめ

今回は、性犯罪の厳罰化について解説しました。

強姦罪は、明治時代からほとんど変わっていない犯罪類型です。現代社会の感覚には一致していないので、改正の必要性がありました。

改正後は、男性も強制性交の被害者になっていますし、姦淫をしなくても、性交類似行為をしただけで処罰対象になります。親などが子どもにわいせつ行為をすると、暴行や脅迫をしていなくても重い罪が成立します。

今回の改正により、性犯罪の被害者の救済が一歩進むこととなりますが、まだまだ不十分という意見もあります。最近では、LGBTなども社会で認知されてきており、性に関する自由や権利が重要視されているので、今後も性犯罪の法改正についての動向には注視していくと良いでしょう。

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