痴漢における「保釈と釈放」について最低限知っておくべきこと

身内が痴漢事件を起こして逮捕されてしまったら、家族は「一刻も早く解放してあげたい」と思うでしょう。
そこで、警察から身体拘束状態を解いてもらう必要がありますが、この場合の「解放」は大まかに分けると2種類のケースが想定できます。
それは、「釈放」と「保釈」です。警察から解放してもらうという点では同じですが、それぞれタイミングや方法が異なってきます。
今回は、痴漢逮捕後の「釈放と保釈の違い」「実際にどのようにして解放してもらえるのか」について解説したいと思います。
釈放とは?
まず、「釈放」の具体的な意味について理解し、どのようにして釈放されるのかも同時にみていきましょう。
釈放とは
釈放は逮捕・勾留からの被疑者の解放のことです。後述する「保釈」も含んだ意味となります。
ここでは「起訴前」の段階で、逮捕・勾留されている被疑者の解放という前提でお話しします。
(※後述する保釈は「起訴後の釈放」のことを指します。)
逮捕後、早期に釈放されるケース
では、逮捕後、早期に釈放されるケースをまず見てみましょう。
もちろん、痴漢であれ盗撮であれ、逮捕された場合、その後勾留されることなく、すぐ釈放もしてもらえると安易に考えないほうが良いでしょう。
捜査機関は、被疑者に罪証隠滅や逃亡の恐れがあるとして身体拘束をしているので、その後もこれが継続する蓋然性はあります。
早期釈放を目指す場合は、最初の3日間が勝負です。逮捕は最長3日間で終わりますが、その後勾留された場合には最長20日間勾留されてしまうためです。
特に痴漢や盗撮の場合は、依頼した弁護士から検察官に「勾留請求をしないよう」働きかけをしてもらい、逮捕後3日以内に釈放してもらうことを目指すことが可能です。
基本的に初犯であり、痴漢行為を認めている場合は、証拠隠滅・逃亡の恐れはないとして、早期に解放してもらえる可能性が高いといえるでしょう。
逮捕後、勾留請求が認められてしまうケース
仮に、勾留請求前(逮捕中)に釈放ができず勾留請求が認められてしまうと、原則としてさらに10日間身体拘束を受けることになります。
長い場合は、これが「20日間に延長」されることもあります。
これを回避するためにまずできることは「被害者と示談を成立させること」です。被害者と示談をすることができれば、すぐに釈放となるケースが非常に多いです。
しかし被害者が交渉に応じない場合、次の手段として「準抗告」(勾留決定が不当であるとして、裁判所に不服申し立て手続きをする)を申し立て、認められれば、無事「釈放」されることとなります。
いずれにしろ早期釈放を実現するためには、できるだけ早期に痴漢に強い弁護士に依頼し、弁護活動を開始してもらいましょう。
保釈とは?
次に、「保釈」について理解していきましょう。同時に「保釈されるためにはどうすれば良いのか」など、具体的な手続きも見ていきます。
保釈申請・保釈請求とは
保釈とは、「起訴後」に保釈金を払い身体拘束状態からの解放を目指すことを指します。ここでポイントは、「起訴後に保釈金を払うこと」です。
保釈は、釈放とは異なり、起訴後にしか認められません。
また、釈放は金銭の納付条件はないのに対し、保釈には保釈保証金の納付が必要になります。
加えて、保釈が認められるためには、保釈請求をし、裁判所に認めてもらう必要があります。
保釈が認められるには
保釈が裁判所に認められるためには、「逃亡や罪証隠滅の恐れがないこと」が特に重要です。
初犯で定住の住所があり家族が一緒に住んでいること、そして罪を認めている場合は、上記要件を充たす可能性が高いといえます。
もっとも、保釈は一時的に身体が解放される制度であって、保釈中に再び罪を犯すなどすると、保釈は取り消され再び身体拘束されることになります。
保釈金は返還されるか・取り消しもあるか
保釈金は、裁判が終われば返還されます。
弁護士が保釈請求をした場合は、裁判所から弁護士の口座に返還されることになります(私選弁護士の場合は、弁護士費用と相殺してから返還するケースが通常です)。
もっとも、返金を受けるためには、保釈決定のときの条件に従って生活をする必要があります。
具体的には、逃亡・罪証隠滅を行わず、保釈条件に反することをしていない場合に返還されることになります。
万が一、逃亡や罪証隠滅をおこなった場合には、保釈が取り消され保釈金も返還されません。
また、返還が判決の結果にも左右されることはありません。すなわち、保釈金は逃亡や罪証隠滅を防ぐことを目的としており、有罪判決が出ようが執行猶予が出ようが目的は達成できるため、保釈の条件に反していない限りは保釈金は返還されます。
保釈金の決定基準
保釈を認めてもらうには、保釈金を支払うことが条件となります。
では、保釈金の額はどのようにして決まるのでしょうか。
保釈金は、裁判官の裁量で決定されます。
基準としては、事件内容や被告人の生活環境・性格、捜査への協力態度、裁判の進行度合いなどから総合的に判断することになります。
これ以外にも、被告人の収入や資産も影響しますが、これは決定的要素ではありません。
また、前科の有無と保釈金額もあまり影響しないように思われます。
痴漢の保釈金の相場
では、痴漢の保釈金は具体的にどのくらいになるのでしょうか。
保釈金の額は事件種別によって異なり、詐欺罪などの財産犯は多額になる傾向がありますが、痴漢事件の場合は150-200万円程度が保釈金の相場と言えます。
強制わいせつ罪にあたる痴漢の場合には、200万円前後になるケースもあります。
具体的にいくらになるのかについては、裁判官の経験や裁判所の運用などが影響してくるため、絶対的にこうなるとはいえません。あくまで目安程度に考えておきましょう。
もっとも、痴漢事件は基本的には、略式手続(公開の法廷ではなく書面の手続で罰金刑が科される手続)で終わるため、保釈金を支払う前に終わることも多いです。
保釈金はいつ、どこで、誰が払うのか
では、保釈金はいつ・どこで・誰が支払うのでしょうか。
まず、保釈金の「支払い時期」ですが、保釈決定が出た後はいつ支払っても大丈夫です。土日は裁判所が休みなので、平日に納付する必要があります。
特に期限などはありませんが、納付しなければ身体拘束状態が続いてしまいますので、早く保釈してもらいたい場合はすぐにでも支払いをしましょう。
保釈金は、保釈を決定した裁判所に一括で現金で支払います。裁判所に支払った後は、「保管金受領証書」をもらうことになります。
保釈は基本的に弁護士が請求します。親族が請求することもできますが、ほとんどの事件で弁護士がついているため、弁護士が請求し、支払いも弁護士が預かり金を持って裁判所に支払いに行くことになります。
保釈金は借り入れできるか?
お金を用意できない場合、実は保釈金を借入れて支払うことも可能です。
しかし、銀行などは「保釈金のため」となると貸してくれないケースがほとんどですので、保証金を貸してくれる保釈金の支援協会や、保釈金の立替業者から借り入れることになります。
利率は支援協会や業者によるため、一律ではありません。様々な業者がありますので、比較検討して選びましょう。
容疑を否認した場合|釈放や保釈が認められない?
容疑を否認していると釈放や保釈が認められないという噂を聞いたことがあるでしょうか。
実際、否認しているからといって、釈放や保釈が絶対に認められないということはありません。
しかし、例えば痴漢行為自体を否認している場合は、なかなか捜査が終わらないため、身体拘束期間が長くなる傾向にあります。「釈放したら逃亡の可能性がある」として、釈放が認められにくくなることも確かでしょう。
もっとも、早く釈放されたいからといって、やってもいないことを認めるのは間違いです。
一旦認めてしまうと、後で供述を翻したときに「信用性がない」と判断されてしまう可能性があります。
否認しても釈放されるケースもあるので、釈放されたいことを理由に容疑を認めることは絶対にしないでください。
一番良い方法は、一早く弁護士に相談して、釈放の弁護活動と共に容疑を晴らすためのサポートをしてもらうことです。
痴漢事件で弁護士に相談するメリットとは
痴漢事件を家族が起こしてしまった場合、できるだけ早く弁護士に相談してください。
弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
①示談交渉ができる
早期に不起訴処分や釈放・保釈を認めてもらうためには、示談の成立が必要不可欠です。
しかし、「被害者に自ら連絡をとること」は難しいと思ってください。
警察・検察は被疑者とその家族に被害者の連絡先を教えないことが通常ですし、仮に連絡先を知っていたとしても、家族からの連絡は被害者に拒絶されてしまうことがあります。
被害者の感情を考えると「話したくない」と思うのは当然です。ここは、被害者の感情を第一に考えることが大切です。
しかし、弁護士ならば「話してもよい」として対応をしてくれるケースがあります。
その後の示談交渉も、プロに任せた方がスムーズに進むでしょう。
②冤罪の場合に対処できる
被害者が犯人を勘違いしているケースもあります。「自分はやっていない」という否認事件の場合は、釈放まで時間がかかってしまうケースがあります。
この場合、弁護士ならば、どのように検察官に話していくべきかをアドバイスをすることができます。
冤罪の場合は、起訴前に検察官の理解を得ることが重要です。
しかし、精神的に圧力をかけられている中、否認するのは大変なことです。弁護士の弁護活動を頼りましょう。
このように、弁護士に相談することにはメリットがあります。早期釈放・保釈を目指すなら、痴漢事件を多く扱っている弁護士や弁護士事務所に相談してください。