執行猶予になる条件とその意味をわかりやすく解説!
執行猶予と聞くとなんとなく「許された。」「無罪とどう違うの?」などという漠然としたイメージ、疑問を抱いている方も多いかと思います。
しかし、執行猶予が付いたからといって、決して無罪となったわけではありません。
この記事では、下記の内容について詳しく解説して参ります。
- 執行猶予の種類、意味
- なぜ執行猶予というものがあるのか?
- 執行猶予の条件
- 執行猶予の期間
- 期間経過後のメリット
最後までご一読いただき、執行猶予について少しでも知っていただけると幸いです。
執行猶予の種類と実刑との違い
執行猶予は大きく2種類に分けることができます。
執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」があり、さらに、全部執行猶予は「通常の執行猶予」と「再度の執行猶予」に分けれます。
たとえば、全部執行猶予の場合、裁判官から下記のような判決が言い渡される場合があります。
- 被告人を懲役3年に処する。
- その刑が確定した日から4年間、その刑の執行を猶予する。
これは「被告人はその罪につき有罪であるが、4年間は懲役3年という刑に服することを猶予し(見送り)ます」という意味です。
そして、4年間を無事に経過したときにはじめて、その刑の言渡しの効力が消滅する、つまり「はじめから懲役3年という刑がなかった(消滅した)ことにしますよ」というのが全部執行猶予の意味です。
これに対して、一部執行猶予の場合、裁判官から下記のような判決が言い渡されることがあります。
- 被告人を懲役2年に処する。
- その刑の一部である懲役10月の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中、被告人を保護観察に付する。
これは「被告人はその罪につき有罪です。そして、はじめ懲役1年2月については刑に服してください。しかし、残りの懲役10月については2年間刑に服することを猶予(保護観察)にします」ということを意味しています。
そして、2年間を無事に経過したときにはじめて、その刑の言渡しの効力が消滅する、つまりはじめから懲役10月という刑がなかった(消滅した)ことにする、というのが一部執行猶予の意味です。
以上からもお分かりいただけるように、一部執行猶予は執行猶予という名称はついているものの、「刑務所で服役しなければならない」ことに変わりありません。
つまり、「一部執行猶予は実刑」なのです。これに対して全部執行猶予は、直ちに刑務所で服役する必要がありませんから実刑ではありません。
この点が、全部執行猶予と一部執行猶予との大きな違いといえます。
なぜ執行猶予が存在するか|無罪ではない
なぜ「執行猶予が存在するのか」「いらないのではないか」と疑問を抱く人も多いでしょう。
執行猶予の目的の一つは、よく知られてる通り「社会内での更正を図ること」です。
罪を犯し、判決で有罪とされても、人によってその罪を犯した動機、経緯、背景などは様々で、単に刑務所に服役させればその人の更正が図れるかといえばそうとも限りません。
刑務所は規則正しい生活を送ることができる一方で、閉鎖的で、かつ、物的人的資源も限られています。
他方で、社会は開放的で、かつ、物的人的資源も豊富のため、人によってはそうした社会の環境下に身を置かせた方が、より更正を図ることができると考えられることがあると言えるでしょう。
執行猶予は人それぞれの性格、置かれた環境などに応じて柔軟に更正を図るための制度ということができます。
もっとも、執行猶予が付いたからといって無罪放免というわけではありません。
執行猶予期間中に「再犯する」「遵守事項を守らない」などの事情が認められる場合は執行猶予が取り消され、刑務所で服役しなければならない可能性は依然として残されています。
つまり、判決で執行猶予が付いたからといって、気を緩めることなく生活していく必要があります。
執行猶予の条件|「懲役・罰金」との関係
ここでは執行猶予のうち「全部執行猶予」のうちの一つである「通常の執行猶予」の条件について解説します。
執行猶予となるためには次の3つの条件を満たす必要があります。
- 条件1:判決で「3年以下の懲役」若しくは「禁錮又は50万円以下の罰金」の言渡しを受ける
- 条件2:「前に」禁錮以上の刑に処せられたことがない、あるいは、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行が終わった日(略)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 条件3:情状に酌むべき事情がある
⑴ 条件1について|懲役・禁錮との関係
まず、3年を超える懲役、禁錮の場合、執行猶予はつきません。
このことは犯した罪の法定刑の懲役、禁錮の下限が3年を超えている場合は、基本的に、執行猶予は付かないということ意味しています。
たとえば、殺人罪(刑法199条)の法定刑は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」で、3年を優に超えています。
したがって、殺人罪で有罪とされた場合、基本的に執行猶予は付かないと考えた方がよいでしょう。
⑵ 条件2について|再犯・二回目の執行猶予
判決以前に「禁錮以上の刑」つまり禁錮、懲役、死刑の刑で有罪の判決が確定したことがない場合は執行猶予になる可能性があります。
もっとも、執行猶予の場合、執行猶予期間が経過すると「刑の効力が消滅します」。
つまり期間が経過した場合は、先述した「刑に処せられた」には当たらなくなり、 再犯であっても、再び二 回目の執行猶予になる可能性はあります。
また、実刑の場合でも、服役が終わった日から「5年以内」に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合は、やはり執行猶予が付く可能性があります。
⑶ 条件3について|情状について
情状に酌むべき事情がある場合は執行猶予が付く可能性があります。
情状とは刑の重さを決める際に考慮される事情のことで、犯罪そのものに関する情状(犯情)とその他の一般情状があります。
犯罪そのものに関する情状は、下記のようなものがあります。
- 犯行動機
- 犯行に至るまでの経緯
- 犯行態様
- 被害結果、結果の程度
その他の一般情状には下記のようなものがあります。
- 被告人の年齢、性格
- 被害弁償・示談の有無
- 被告人の反省の程度
- 被害者の被害感情
- 更生可能性(適切な監督者・身元引受人の有無、就職の有無など)
- 再犯可能性(前科・前歴の有無、常習性の有無など)
これらの情状の中で被告人にとって有利な情状(たとえば、被害弁償・示談したなど)があればあるほど執行猶予が付く可能性が高くなります。
執行猶予が明けたら|その3つのメリット
最後に執行猶予の期間、執行猶予の期間が明けた場合のメリットについて解説します。
⑴ 執行猶予の期間|最長5年
執行猶予の期間は「最短1年・最長5年」の期間で定められます。
もっとも、たとえば「2年6月」などとされることはなく、「1年」「2年」「3年」「4年」「5年」のうちのいずれかの期間です。
また、1年とされることは稀で、通常は2年以上とされることが多いです。
最長5年の場合は、実刑との境界線ぎりぎりのところで執行猶予とされたわけですから、「実刑とされてもおかしくなはなかった」ということを意味しています。
⑵ 執行猶予期間が経過した場合のメリット
執行猶予期間が明けたら、3つのメリットがあります。以下のとおりです。
① 前科は消えないが、心理的プレッシャーからの解放
執行猶予期間中は、執行猶予が取り消され刑務所に服役しなければならない可能性が残されています。
執行猶予期間が経過した場合はその可能性がなくなるわけですから、少なくとも「刑務所に行かなければならないかも…」などという心理的プレッシャーからは解放されます。
もっとも、過去に罪を犯したという事実が消えるわけではないことに注意しましょう。
執行猶予でも前科はつきますし、執行猶予期間が経過したからといって前科が消えることはないからです。
したがって、仮に、再犯した場合は、過去に罪を犯したという事実を重く見られて量刑が重たくなる可能性も十分に考えられます。
執行猶予期間が経過した後も、引き続き気を緩めることなく生活することが大切です。
② 免許・資格を有する職業に就ける条件が整う
免許、資格を必要とする職業については、執行猶予以外も含めて一定の刑以上の刑の判決を受け確定すると「欠格事由」にあたります。
弁護士など欠格事由にあたると必ず免許、資格を取得できない職業と、医師、看護師などの免許・資格を付与する権利者の裁量によって取得できない場合がある職業があります。
もっとも、執行猶予期間が経過した場合は欠格事由にあたらなくなり、免許、資格を必要とする職業に就ける条件が整います。
③ 犯罪人名簿から削除される
執行猶予以外の刑を含めて、一定の刑以上の刑の判決を受け確定すると、犯罪人名簿に登録されてしまいます。
犯罪人名簿は「選挙権・被選挙権の有無の確認」「欠格事由の有無の確認」の際などに活用されます。
執行猶予期間が経過した場合は、この犯罪人名簿から削除されます。
まとめ
全部執行猶予は一定期間、刑務所に服役しなくてよい、ということを意味しています。そして、その期間が経過した後は、刑務所に行かなくて済むことはもちろん、免許、資格を必要とする職に就けるなどのメリットが生まれます。もっとも、執行猶予が付くためには様々な条件をクリアする必要があります。「自分は執行猶予が付く可能性はあるのかないのか」「どうすれば執行猶予が付くのか」お悩みの方ははやめに弁護士に相談しましょう。