刑事事件の「謝罪文」の書き方、書式、効果について

刑事事件の被疑者となってしまったら、被害者に対する配慮が必要です。被害者との示談を成立させると加害者への処分内容が軽くなるからです。
示談をするにも、まずは被害者に対する「謝罪」が必要です。そして、被疑者が被害者に謝罪の意思を伝えるには「謝罪文」が役に立ちます。ただ、多くの加害者の方は「謝罪文の書き方がわからない」とおっしゃいます。
そこで今回は、本気で被害者に謝罪の気持ちを伝えて示談をするための「謝罪文」の正しい書き方や効果について、弁護士が説明します。
謝罪文とその意義
謝罪文とは
謝罪文とは、刑事事件の被疑者や被告人が、被害者に対して謝罪する気持ちを伝えるための書類です。刑事事件の被疑者は、警察の留置所に身柄拘束されていることも多く、自ら被害者に謝りに行くことはできません。
また、在宅捜査のケースでも、被疑者は被害者の氏名や住所を知らないことがありますし、知っていても、被害者は「会いたくない」と考えることが多いです。そこで、被疑者や被告人は、謝罪文を書いて弁護士に渡し、弁護士から被害者に送付する必要があるのです。
ただ、謝罪文の本文自体は、弁護士が書いてくれるわけではありませんから、被疑者が自分で書く必要があります。
反省文との違い
謝罪文と似た文書として「反省文」がありますが、反省文と謝罪文は、どのような点が異なるのでしょうか?これらは、両方とも「被疑者・被告人の反省の気持ち」を表現するための書類です。
ただ、謝罪文は、「被害者に宛てた手紙」です。つまり、犯人が被害者に対して「申し訳ありません」と謝るための書類です。謝罪文を書く場合「被害者がいる」ことが前提となっています。
これに対し反省文は、「被疑者や被告人が、単純に反省していることを書いた書類」です。反省文を書くのは、通常被害者のいない犯罪です。たとえば、覚せい剤取締法違反などのケースで「もう二度としません」などの内容の反省文を書いて、検察官や裁判所に提出するのが「反省文」です。そうすると、検察官や裁判所は、「本人も反省しているのだな」と考えて、処分を軽くします。
反省文の場合、読む人は検察官や裁判所です。これらの人は、第三者ですしプロですから、被疑者や被告人による表現方法や内容が多少不適切でも、さして気にしません。
謝罪文は、そうではなく、直接被害者に宛てた手紙です。表現内容などに配慮しないと、被害者の気持ちを損ねてしまうおそれもあり、そうなると示談も難しくなってしまうので、注意が必要です。
必ず手書きで書く
謝罪文を書くとき、「パソコンなどで作成しても良いのでしょうか?」という質問を受けることがあります。確かに、示談書や嘆願書の書式を作るときには、パソコンで作成してもかまいません。しかし、謝罪文は必ず手書きで書きましょう。
このことは、被害者の気持ちになれば、わかります。
パソコンで書かれた謝罪文が送られてきたら、「このようなものは、誰が書いたかわからない」と考えます。「弁護士が代わりに書いたに違いない」と思うかもしれません。どちらにしても、まったく誠意が伝わらないのです。
そこで、謝罪文は、下手な字であっても手書きで書くべきです。いったんパソコンで下書きをしてから手書きで清書するのでもかまいません。
刑事事件における謝罪文の意義
刑事事件において、そもそも謝罪文を作成することにどのような意味があるのでしょうか?
刑事事件で被疑者や被告人が処分を軽くしてもらうには、被害者と示談することが重要です。捜査中であれば、被害者と示談ができれば、検察官に不起訴にしてもらえる可能性が高くなります。不起訴になったら、裁判の被告人になることもありませんし、有罪判決を受けて前科がつくこともありません。
起訴されてしまった場合にも示談ができると、刑を軽くしてもらうことができます。たとえば、実刑相当な場合でも、執行猶予をつけてもらえる可能性が出てきます。
ただ、刑事事件の被害者は、通常加害者に対して強い怒りを感じているものです。何の謝罪もなく、いきなり示談してほしいと言われても、とうてい示談には応じないでしょう。
そこで、被害者と示談する前提として、被害者に対する真摯な謝罪の意思を伝える必要があるのです。そのための書類が「謝罪文」です。
謝罪文の内容1つで、被害者が示談に応じる気持ちになるかどうか、変わることもあります。また、被害者の被害感情が軽い場合などには、被疑者からの真摯な謝罪文が届くことによって、被害届を取り下げてくれるケースなどもあります。そうなると、捜査も取りやめになって、刑事手続から解放されることもあるので、謝罪文を軽視することはできません。
そこで、謝罪文を書くときには、被害者の気分を害しないように、また、なるべく前向きに示談する気持ちになってもらえるように、内容には十分配慮しながら作成する必要があります。
謝罪文を作成するタイミング
被疑者や被告人が謝罪文を作成するタイミングは、できるだけ早い方が良いです。
通常は、弁護士がついたら、すぐに被疑者・被告人に対し、謝罪文を作成するように求めます。
まずは謝罪文を用意して、それとともに被害者に示談の申し入れをして、示談交渉を進めていく、という流れになるからです。
そこで、謝罪文を書けないと、なかなか示談を進めることもできず、時間切れとなってしまって起訴されるということもあり得ます。「書き方がわからない」と言って先延ばしにしている暇はありません。
謝罪文の内容
「謝罪文を書くとき、どのような内容にすれば良いのか?」
謝罪文は、被疑者や被告人が被害者に率直な謝罪意思を伝えるためのものですから、「正解」というものはありません。
ただ、被害者に対し謝罪の気持ちが伝わる内容にするよう、気をつけなければなりません。被害者は、ただでさえ加害者に対しては怒りの気持ちを持っているので、厳しい目で見てきます。不用意なことを言うと、逆手に捉えて感情を逆なでしてしまうことになります。
書くべき内容を挙げると、以下の通りです。
- 率直な謝罪の気持ち
まずは、率直な謝罪の気持ちを述べるところから、文章を始めましょう。
- 被害者の状況を気にかける
被害者の怪我の具合や心の傷などを心配していることを伝えます。自分のことよりも、相手のことを慮る姿勢が重要です。
- 犯行動機について、少し述べる
これについては、場合によります。言い訳じみたものになる場合には、書かない方が良いこともあります。
- 被害弁償について
どうしても被害弁償をしたい気持ちがあることを伝えることが大切です。その後、示談金や支払い方法などについて、具体的な提案をしていきます。
- 言葉遣いは、丁寧に
謙譲語を使いながら、丁寧すぎると思われるほど丁寧に書いて良いです。
また、「反省していない」と捉えられる可能性のあることは、一切書いてはいけません。間違っても「お金さえ払ったら良い」「単に減刑してもらいたいから、謝罪文を送ってきた」「自分のことしか考えていない」と受け止められるようなニュアンスになってはいけません。
一度書いたら、時間を開けて、何度も見直しましょう。被害者に送る前に弁護士がチェックする場合には、不適切な部分があったら修正することができます。自分一人で書くと、どうしても独りよがりな内容になってしまったり、不要なことを書いてしまったり。反対に必要なことを書き漏らしたりすることがあるので、弁護士に相談することをお勧めします。
謝罪文の文例
以下では、謝罪文の一例をご紹介します。これを参考にして、アレンジして文章を作成しましょう。
謝罪文 〇〇〇〇 様 このたびは、多大なご迷惑をおかけしてしまい、また非常に不快なお気持ちにさせてしまいましたこと、まずは心よりお詫び申し上げます。 どうしても、この謝罪の気持ちをお伝えしなければと思い、失礼ながらもこのようなお手紙を差し上げることといたしました。 突然、このようなお手紙を差し上げることにより、さらに不快な思いをさせてしまいましたら、大変申し訳ありません。重ねてお詫びを申し上げます。 今となりましては、自分でもどうしてあのような行為に及んでしまったのか、わからないくらいの気持ちで、日々反省をしながら過ごしております。 〇〇様にご迷惑をおかけすることが明らかであるにもかかわらず、そのような簡単なことを理解せずに非常識な行動に出てしまいました自分が、今はただただ恥ずかしく、忌まわしく、自責の念にかられる毎日です。 〇〇様におかれましては、本件により、ご体調を崩されているとお伺いしております。そのようなことをお伺いするにつけても、申し訳ない気持ちで一杯になります。 私がこのようなことを言う資格がないことは重々承知の上ですが、どうか早期に回復されることを、心よりお祈りしております。 今回私がしてしまったことを真摯に受け止め、私としては、どうしても〇〇様へ、償いをさせていただきたいと考えております。僅少ではありますが、治療費や慰謝料をお渡しさせていただきたいと強く望んでおりますので、何とぞお受け取りいただけましたら幸いです。 このようなぶしつけなことを申し上げて、重ねて不快な思いをさせてしまいましたら、本当に申し訳ありません。今後は、決して〇〇様に接触したり近づいたりすることはいたしません。二度とこのような過ちを繰り返さないことを、固く誓っておりますので、せめてもの誠意として、どうかお受け取り下さい。 末尾になりましたが、改めて、本件によって〇〇様に多大なるご迷惑をおかけしましたこと、重ねて陳謝いたします。 本当に、申し訳ありませんでした。 平成〇〇年〇月〇〇日 甲野一郎 ㊞ |
謝罪文とともに揃えたい書面
刑事事件の被疑者・被告人になったとき、まずは謝罪文を書くところから始めますが、謝罪文だけでは法的な効果は、何もありません。実際に、不起訴処分や減刑などをしてもらうためには、被害者と示談をしたり、嘆願書を書いたりしてもらう必要があります。
示談書とは、被害者との示談が成立していることを証明するための書面です。賠償金の金額や支払い方法などが記入されている、契約書のような書類となります。契約書ですから、被害者にも署名押印をしてもらう必要があります。
嘆願書とは、被害者の立場から、検察官や裁判官に対し、加害者への処分を軽くしてくれるようにお願いするための文書です。被害者が作成名義人となりますから、被害者に署名押印してもらわないと、成立しません。
そこで、まずは被害者に謝罪文を送付して、被害者が示談に応じる気持ちになってくれたときには、示談書や嘆願書などの書面も用意して、示談に臨みましょう。
示談書や嘆願書については、以下の記事で詳しく解説しているので、是非ともご参照ください。
そして、できあがった示談書や嘆願書を検察官や裁判所に提出することにより、初めて不起訴になったり、刑罰を減軽してもらえたり、という効果が発生します。
謝罪文は、示談書や嘆願書を作成するための、最初の一歩である、ということを押さえておきましょう。
まとめ
被害者がいる刑事事件は、被害者と示談することが非常に重要なポイントとなります。そこで、加害者の反省の気持ちを伝える「謝罪文」の果たす役割が大きくなります。
謝罪文をきちんと書いて、しっかりと反省していることが伝われば、被害者が示談や被害届の取り下げに応じてくれる可能性があります。
自分ではどのように謝罪文を書いて良いかわからない方、書いてはみたものの自信がない方は、ご相談いただけましたら、弁護士から効果的なアドバイスをいたします。
刑事事件で逮捕されてしまい、早めに釈放されたい場合や不起訴になりたい場合、在宅事件でも罰金前科を免れたい場合などには、お早めに弁護士までご相談ください。