盗撮と前科|加害者の逮捕後の人生は大きく変わるか

・盗撮で逮捕されてしまった!
・盗撮で有罪になったら、その後どうなるのでしょう?
盗撮事件の加害者になってしまった場合、今後どうなってしまうのだろうという不安を抱えると思います。
今回は、盗撮事件の加害者は「再就職で不利になるか」「海外旅行にいけるか」「前科を知られて白い目でみられるか」「そもそも前科はどうやってバレるのか」など具体的さまざまな疑問について解説したいと思います。
前科とは
そもそも、逮捕されると即、前科がつくようなイメージを持っている方も多いかもしれません。
しかし、逮捕≒前科ではありません。
まずは、「前科」と「前歴」と「犯歴」との違いについて解説致します。
前科とは
「前科」とは、なんらかの犯罪で
・起訴される
・その結果、有罪の判決を受けて刑が確定した
という事実のことです。
たとえ「罰金刑」であっても、有罪判決を受けているため「前科」になります。
前歴とは
「前歴」とは、
・捜査機関(警察、検察)の捜査の対象となったことがある
という事実のことです。
盗撮の被害者と示談をし、不起訴を獲得した場合は、前歴が残りますが、「前科」にはならないということです。
犯歴とは
「犯歴」とは、加害者として罪を犯した経験の有無の履歴のこととされています。
「前科」と同じ意味で使われていることもありますし「前科」と「前歴」を合わせたものとして使われる場合もあります。
「犯罪歴」という言葉も同じような意味合いで使われているようです。
盗撮の前科があると再就職に不利になるか
盗撮で逮捕された場合、現在の会社をクビになる恐れがあります。
前科は、果たして就職活動をはじめた際に不利な影響があるのでしょうか。
身辺調査で、バレる?
大企業は、採用にあたって、身辺調査を行う可能性があります。
しかし、一般企業では、前科や前歴を調べることはできないので、影響がないことがほとんどでしょう。
ただし最近は採用担当者がインターネット検索したり、実名SNSなどのチェックをする場合もあります。実名報道されている場合は、不利になる可能性があると言えます。
履歴書の記載(賞罰欄)で、ばれる?
履歴書の「賞罰欄」における「罰」とは、確定した有罪判決のことをいいいます。
そこで、前歴は記載する必要はありませんが、前科は、記載することになります。
なぜ、そのような不利なことまで記載しなければならないかというと、労働者は、採用の際に「真実告知義務」を負っているからです。
下記は、最高裁判所、平成3年9月19日の判決からです
使用者が、労働力評価に直接かかわる事項のみならず、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についての必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上真実を告知する義務を負う
とされています。
そこで前科を詐称すると、経歴詐称として懲戒解雇の原因になります。
ただ、必ず懲戒解雇になるわけではなく、その職種や前科の種類によって、ケースバイケースです。
もっとも、「刑の消滅した前科」については、原則として、記載する必要がありません。
仙台地方裁判所昭和60年9月19日判決では、
「刑の消滅した前科」については、「その存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼさざるを得ないといった特段の事情のない限りは、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないと解するのが相当である」
と判示しています。条件などについては後述致します。
その他:資格制限
公務員や士業、医師など、前科によって資格制限のある職業もあり逮捕後の人生、再就職に影響を与える場合があります。
後述する「犯罪人名簿」の項目でもう少し詳しく解説致します。
盗撮の前科と海外旅行
普段、海外へ行かない人でも、結婚や出張などで突然行く予定ができるケースが少なくありません。
そこで逮捕後の海外旅行のリスクを見てみましょう。
前科でパスポートが作れない?申請の注意点
そもそもパスポートを取得するときには、住民票や戸籍の提出が必要になりますが、ここに前科が記載されているのではないかと不安になる人も多いです。
しかし、あとで解説するように役所は犯罪歴を保管していますが、住民票や戸籍に前科を記載することはありません。
ただし、
・刑事裁判を受けている最中の人
・逮捕状などが出ている人
・刑を受けている途中の人
(*執行猶予中の人や仮釈放中の人など)
などは、旅券法によって、出国を制限されることがあります。
そのため、パスポートを取得する際には「現在、日本国法令により、仮釈放、刑の執行停止又は執行猶予の処分を受けていますか」という質問をされます。
この質問に対して、虚偽の記載すると、旅券法違反で逮捕される恐れがあります。
前科はあるけれど、刑が終わっているという場合で、パスポートが取得できない可能性があるのは
・「渡航先に施行されている法規により、その国に入ることを認められない者」(旅券法第13条第1号)
に該当する場合です。
海外渡航の可否
渡航先の国の法規によっては、海外渡航はできず逮捕後の人生に影響を与えます。
また国ごとに、犯罪歴がある場合の入国拒否の有無・基準は異なります。
ビザなしで入国できる国の場合
海外旅行をする場合にビザが必要ない国は入国可能であることがほとんどです。
出入国カードに記入を行うことになりますが、前科の有無欄自体がないケースが多いようです。
入国審査の厳しい国
入国審査が厳しい国としては、アメリカ(ハワイも含めて)やオーストラリアなどが挙げられます。
例えば、アメリカでは、盗撮事件などの軽犯罪の加害者であっても、ESTA申請が不可となる場合があり、その場合ビザを取得する必要があります。
ビザの取得の可否は、前科の内容によって異なり、一律入国禁止になっている犯罪とビザの発給の審査結果によっては入国可能な犯罪があります。
ただし審査の具体的な基準は公開されておらず、ビザ許可の判断は、領事の裁量にゆだねられています。
盗撮の前科は、調べられるとバレるか
犯罪人名簿と管理場所
犯罪歴を管理しているのは、検察庁と役所(本籍地の役所)です。
まず、役所には「犯罪人名簿」というものがあり、その地域に本籍を置いている人の前科を管理しています。法律による根拠はないのですが、「犯歴事務規程」に基づいて運用されています。
ある人について、有罪判決が確定すると、検察庁から通知書が送られてきますので、この通知書に基づいて犯罪人名簿は作成されます。
犯罪人名簿に記載されるのは、罰金刑以上の刑罰を受けた場合です。
ただし、交通違反の罰金刑は記載されず(禁錮刑以上は記載されます)、少年の加害者の場合も一定の場合には記載されないなど例外があります。
また盗撮の場合「科料や拘留」のような軽い刑罰を受ける場合がありますが、その場合は記載されません。
(ただし後ほど解説する「検察官が管理する犯罪票」には記載されています)
犯罪人名簿の役割
この犯罪人名簿の役割は主に2つあります。
1つ目は、公職選挙法によって、一定の犯罪では、選挙権や被選挙権が停止になるため、選挙権が停止している者に選挙票などを間違って送ってしまわないようにするなど、選挙事務のためです。
2つ目は、一定の職につく資格の有無を確認するためです。
例えば、司法試験に合格すると司法修習生という立場になります。司法修習生というのは、公務員に準じる立場ですので、犯罪歴がないことを証明する必要があります。そのとき、本籍地の役所で、自分の身分証明書を取得して、提出するのです。
犯罪人名簿は、誰でも閲覧できる?
そうすると、役所の職員は、他人の犯歴を自由に知ることができるのではないかと考えるかもしれません。
犯罪人名簿を管理する部署の職員は、検察庁からの通知を受けて、名簿に記載するときや、身分証明書を発行するときには、当然、他人の犯歴を見ることになります。
しかし、公務員には、守秘義務があります。他人の前科や前歴を漏らせば、刑罰が科されます。
また犯罪歴は、非常に高度なプライバシーであるため、犯罪人名簿に触れることのできる職員を限定するなどの対策もとられています。
つまり犯罪人名簿を一般の人が閲覧する方法はありませんので、犯罪人名簿から前科がバレることはありません。
検察庁の犯罪票からバレるか?
また役所とは別に、検察庁も犯歴事務規程に基づいて「犯罪票」を作成し管理を行います。
これは、「検察事務」及び「刑事裁判の適正な運用」が目的とされています。主には、次に犯罪を犯した場合の量刑に、前科が影響するためです。
検察庁は、検察官と検察事務官以外の人からの前科照会は受け付けないことになっているため、ここから一般の人に前科がバレることはありません。
なお、犯罪票は、犯罪人名簿とは違い、「拘留、科料」などの軽微な罪も記載されます。
盗撮は実名報道されるか
現代において、前科がバレるのは、逮捕されたときに実名報道されていた場合です。
しかも、逮捕されたときにニュースになっても、その後、不起訴になったときとか、無罪になったときなどにニュースになっていないことも多く、インターネット上では、「逮捕された」という事実だけが残っていて、「逮捕=前科」という認識が根強い世間では、事実上の不利益を受けることが多いと言えます。
盗撮の場合は、実名報道されることは他の犯罪と比べて少ないですが、悪質な場合や教員・公務員・市議会議員などは報道されるケースもあります。
盗撮の前科は消える?
「刑の消滅」とは
前科を消したいと考える人もいるかと思いますが、残念ながら前科を自分で消す方法はありません。
お金を積んでも、弁護士に依頼しても困難です。しかし、「刑の消滅」という制度があり、時間が経てば前科の効力は消えることがあります。
「刑の消滅」については、刑法第34条の2に下記のとおり定められています。
・禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき
・罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年経過したとき
・刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで2年を経過したとき
なお、執行猶予付き判決の場合は
・刑法第27条に「刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」
と規定されていますので、例えば、執行猶予3年であれば、3年間無事に経過すれば、前科の「効力」が消えます。
刑の消滅で、前科は消える?
また、刑が消滅すると、犯罪人名簿からは削除されます。
しかし、検察庁の犯罪票から消えるということはありません。
何年前の前科でも保存されていて、次に罪を犯したときには、情状に悪い影響を与えます。
検察庁の犯罪票から前科が抹消されるのは、その人が死亡した場合のみです(犯歴事務規程18条)
盗撮の前科は、示談して不起訴になればつかない
以上、盗撮で逮捕された場合のデメリット、また前科について解説してきました。
まだ刑が確定していない場合、弁護士に依頼して被害者と示談すると、前科を回避できる可能性があります。
前科がついて、社会的なダメージが大きくなる前に、盗撮事件に強い弁護士に相談をしてみることをおすすめします。