痴漢で被害者と示談する流れ。示談金・慰謝料の相場は?
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刑事事件で逮捕されてしまった場合には、被害者に「嘆願書」を作成してもらうことが重要です。なぜ重要かというと罪の処分が軽くなる可能性があるからです。
嘆願書は被害者の立場から、加害者への寛大な処分を求めるようお願いする書面のことです。
被害者だけではなく、会社に作成してもらうこともありますし、被害者から勤務先の会社に宛てた嘆願書を作成してもらうことなどもあり、バリエーションはいろいろあります。
嘆願書を作成・提出することにより、加害者の立場はいろいろな意味で、良くなります。
今回は、刑事事件における「嘆願書」の意味と活用方法や書式、書き方について、弁護士がわかりやすく解説します。
そもそも、嘆願書とはいったいどのような書類なのでしょうか?
嘆願書は、本来「何かをお願いする書類」です。
先ほども申しました通り、刑事事件の場合は加害者への処分を軽くできる可能性があるのが嘆願書です。
嘆願書を作成するのは、通常は「被害者」です。犯罪の被害を受けた被害者自身が加害者への処罰を軽くすること、つまり減刑を望むことにより、加害者への処分内容が相当軽くなることが期待できます。
そこで、刑事事件になったときには、被害者に嘆願書を書いてもらうことが重要となってきます。
嘆願書は、作成者や提出先などにより、いくつかの種類に分けられます。
もっともオーソドックスな嘆願書は、被害者から検察官に向けた嘆願書です。
これは、事件の捜査中、起訴前の段階で、検察官に提出するためのものです。
起訴前の段階で被害者から嘆願書が提出されると、被疑者の情状が良くなるので、検察官は被疑者を不起訴処分にする可能性が高くなります。
そこで、起訴前に被害者に嘆願書を依頼するときには、宛先を「検察官」としておく必要があります。
またこの段階で嘆願書作成をすすめているということは同時に、被害者と示談も進めている状況であると思います。
詳しい示談の進め方については、下記記事をご参照ください。
もう1つのよくあるパターンは、被害者から裁判所に向けた嘆願書です。これは、加害者の起訴後、裁判中に、裁判所に提出することを目的とします。
いったん起訴されてしまったら、刑罰を決めるのは裁判所ですから、検察官に嘆願書を提出する意味はそもそもありません。
被害者の立場から、裁判所に向けて刑を軽くするようお願いすることにより、被告人に対する刑罰を軽くしてもらうことが期待できます。
また被害者だけではなく、職場の関係者(上司など)や社長、雇用主などに嘆願書を作成してもらうこともあります。
刑事手続において、被疑者や被告人が定職に就いていて身元がはっきりしていることは、良い情状となります。職場関係者がしっかり監督することを誓っていたら、被疑者・被告人を社会に戻しても、多少安心です。
そこで、こうした職場関係者から検察官や裁判所に嘆願書を提出してもらうことにより、不起訴処分となったり(検察官のケース)、刑を軽くしてもらったり(裁判所のケース)することができるのです。
最後に、被害者から自分が勤めている会社宛についてです。
刑事事件の被疑者や被告人となると、会社を懲戒解雇されてしまうことがあります。
多くの会社の就業規則において、「刑事事件で有罪判決を受けると、懲戒解雇の対象になる」とされているからです。
そこで、被害者から勤務先の会社宛に、「会社を解雇しないであげてください」という内容の嘆願書を作成してもらうことが、有効です。これにより、会社が解雇を避けて配置転換や降格処分などで済むケースもあります。
刑事事件となって、会社での立場が危うくうなったときには、被害者に会社宛の嘆願書も一緒にお願いしましょう。
また逮捕された時の会社への対応はスピード感が求められます。
下記記事もあわせてご参考ください。
以上、嘆願書にはいろいろな種類のものがありますが、中でも特に重要なのは「被害者から検察官宛」の嘆願書です。
これによって検察官が「不起訴処分」の判断をすると、刑事裁判にならず、前科がつくこともなくなるからです。日本の刑事裁判では、有罪率が99.9%以上となっているので、いったん起訴されると、無罪になることは難しいです。有罪判決が下ると、一生消えない前科がつきます。
そこで、不起訴処分としてもらうことにより、刑事裁判そのものを避けることが重要となります。
以下では、嘆願書を作成・提出すると、どのような効果があるのか説明します。
まず、重要な効果は、「不起訴処分となる可能性が上がる」ことです。
検察官は、起訴か不起訴かを決定するときに、被害者の感情を無視することはできません。そこで、起訴前に検察官に対して被害者から嘆願書が提出されていると、検察官は、不起訴処分をする可能性が非常に高くなります。
また、親告罪の場合などには、被害者が嘆願書を提出して告訴を取り下げたら、検察官は被疑者を起訴することさえできません。
ただし、嘆願書があっても、起訴されることはあります。起訴するかしないかは、被害者の感情のみで決めることではないからです。
嘆願書によって不起訴処分となるのは、比較的軽い罪に限られます。
重罪のケース、悪質なケース、常習性のあるケースなどでは、嘆願書があっても起訴される可能性があるので、注意が必要です。
起訴後に嘆願書が裁判所に対して提出されると、裁判所が被告人に下す判決において、刑罰が軽くなります。
たとえば、懲役刑で実刑相当の事案でも、嘆願書があれば刑期が短くなる可能性があります。実刑相当の事案が執行猶予となることもありますし、懲役刑であるところを罰金刑にしてもらえることもあります。
起訴されてしまっても、示談や嘆願書の作成が無意味になるわけではないので、諦めずに被害者との示談交渉を続けることが大切です。
被害者から会社に嘆願書を書いてもらうことで、加害者は解雇を免れることができる可能性があります。
会社としても、被害者が許しており、それだけではなく職務継続まで望んでいるのであれば、あえて加害者を懲戒解雇する必要はない、と考えるからです。
ただし、規律の厳しい勤務先などの場合、被害者からの嘆願書が提出されていても、解雇やその他の懲戒処分を受けることはあります。
最終的には、会社や勤務先の意思決定に委ねられるということです。
刑事事件となったとき、被害者に対して「嘆願書」だけを単独で求めることは、通常ありません。普通は「示談書」と一緒に嘆願書を作成してくれるように求めます。
示談書とは、示談が成立したことを証明する書類です。
示談が成立しても、きちんと示談書を作成しておかないと、双方が納得して金銭のやり取りが行われたのかがわからないので、示談金を支払うときには必ず示談書を作成します。
そして、示談が成立しない限り、嘆願書を書いてもらうことはできないと考えましょう。
通常、被害者は加害者に対して憤っているものです。「許せない」「厳罰を与えてほしい」と考えていることが普通です。
そのような状態の被害者に対し、賠償金も払わずに「加害者の刑罰を軽くするための嘆願書を書いてほしい」と言っても、署名押印を拒絶することは明らかでしょう。
きちんと賠償問題が解決して、お互いが和解できたからこそ、被害者は「加害者のために嘆願書を書いても良いかな」と考えるのです。
そこで、示談なしに、いきなり被害者に嘆願書の話を持ち出すのは、NGです。
まずは被害弁償の意思があることを伝え、示談を成立させ、示談書を作るタイミングで「できれば嘆願書も作成してください」と言って依頼しまましょう。
被害者に嘆願書を作成してもらうときには、文面を被害者に考えてもらうことはしません。
その場で被害者に作文をお願いするのはあまりに厚かましいですし、被害者は拒絶してしまいます。そこで、加害者側が文面を作成していって、被害者は署名押印をすれば良いだけの状態に整えておくことが重要です。
以下では、嘆願書の書式(被害者から検察官宛のもの)の例をご紹介します。
平成 年 月 日
嘆 願 書 東京地方検察庁 ご担当検察官 殿 住所 氏名 印 私は、平成〇〇年〇月〇日、被疑者〇〇さんの痴漢事件の被害者です。 このたび、〇〇さんは、非常に反省しているとお聞きし、またきちんと謝罪もお受けしましたし、示談金もお支払い頂きました。 そこで、本件については私も宥恕することとし、検察官様におかれましても、諸事情を御考慮の上、今回に限って、〇〇さんに対しては不起訴などの寛大な処分を賜りたく、嘆願いたします。 以上 |
この書式を基本として、宛先や作成名義人などを変えて、ケースによってアレンジして使ってください。
嘆願書を書くときには、まずは、誰から誰に宛てた嘆願書なのかを考えなければなりません。
起訴前なら「検察官」となりますし、起訴後なら「裁判所」となります。
また、会社宛であれば、「株式会社〇〇 御中」などと記載する必要があります。
そして、嘆願書の作成日付や事件の概要を書きましょう。事件の概要の記載がないと、何の事件についての嘆願書かわからなくなってしまうからです。
事件を表示するときには、事件が発生した日時と場所、簡単な事件内容を書きましょう。
また、被害者への軽い処分を希望する理由などについても、簡単に記載することをお勧めします。たとえば、被疑者が反省していることや初犯であること、家族がいると聞いたこと、きちんと謝罪を受けたこと、示談が成立して賠償金を受けとったことなどを書き入れます。
さらに、嘆願する事項を書くことが重要です。具体的に、何をしてほしいのかと言うことです。抽象的に「寛大な処分」と書いても良いですし、検察官宛てなら「不起訴処分」、裁判官宛なら「執行猶予つき判決」など、具体的に書き入れても良いです。
嘆願書を作成するときには、被害者の署名押印方法についても、注意が必要です。
署名は、必ず自筆で書いてもらいましょう。その他の部分はパソコンで作成して持っていったら良いのですが、必ず氏名の欄は文字入力せずに開けておくことが重要です。
署名は、必ずペンで書いてもらいましょう。鉛筆は、消えてしまう可能性があるので、不可です。
押印してもらうときには、シャチハタ以外のものとしましょう。シャチハタは、大量生産品で信用性が低いと考えられていますし、ゴム製なので印影が変わってしまう可能性もあるからです。ただし、実印で押印してもらう必要はなく、認印でもかまいません。
被害者と外で会うときには、被害者が印鑑を持っていない可能性があるので、念のため、被害者の苗字の印鑑をこちらで買って用意していっても良いです。
また、嘆願書にいろいろと余計なことを書きすぎると危険です。たとえば「被疑者にも気の毒な事情があるので…」とか「ふだんは真面目で良い人」などと書くと、被害者としては「そんなことは思っていない」と感じ、署名押印してもらえないことがあります。
また、こちらが用意していった文面のままでは被害者が納得しない場合には、二重線を引いて被害者が納得する内容に訂正してでも署名押印をもらいましょう。
嘆願書を書いてもらっても、無効になってしまうケースがあるので、注意が必要です。
1つは、被害者を強迫して無理矢理嘆願書を書かせた場合です。たとえば被害者宅に上がり込んで、意思を制圧して嘆願書や示談書を書かせると、被害者は「強迫による取消し」をすることができるので(民法96条1項)、嘆願書も示談書も無効となります。このようなことをすると、情状がかえって悪くなりますから、絶対に辞めましょう。
同様に、被害者を騙したり、錯誤に乗じて嘆願書にサインさせたりした場合にも、やはり無効となります(民法96条1項、95条)。
被害者に嘆願書を作成してもらいたい場合には、誠実な態度で臨みましょう。
被害者が未成年の場合、本人だけではなく親権者にも嘆願書を書いてもらうべきでしょうか?
民法上、未成年者は、単独では有効な法律行為をすることができないとされています(民法5条1項)。そこで、「示談書」にサインをするのは、法定代理人である親権者となります。示談は、賠償金の金額や支払い方法を決める「法律行為」だからです。
これに対し、嘆願書の場合、検察官や裁判官に「お願いをする書類」ですから、権利義務を決める法律行為とは異なり、未成年でもできないということはありません。未成年者本人の気持ちとして、「被害者への処罰を軽くしてほしい」と考えているなら、その気持ちは評価すべきです。そこで、未成年者本人に嘆願書を書いてもらう意味があります。
ただ、未成年者は判断能力が不十分であると考えられることがあります。特に小さい子どもの場合、本人を刑事事件に巻き込むべきではないという判断もありますし、意味もわからずサインさせたと評価されると、かえって情状が悪くなるかもしれません。
そこで、未成年者が相手の場合、親権者から嘆願書をもらうことをお勧めします。
示談交渉の相手は親権者となりますから、示談書作成と同時に親権者から嘆願書も作成してもらうと良いでしょう。
被害者が存在する刑事事件では、被害者や勤務先の会社から「嘆願書」を作成してもらうことが重要です。嘆願書を作成するときには、どこに宛てた嘆願書なのかを考えてパターン別に文面を考える必要があります。また被害者が署名押印しやすいように、内容に配慮することも大切です。
効果的に嘆願書を作成して、確実に早期に身柄を解放してもらったり不起訴処分を獲得したりするためには、弁護士によるサポートが役立ちます。弁護士であれば、スピーディーに被害者との示談交渉を進め、正確な内容の嘆願書を作成します。
示談交渉を行うときには時間との勝負となることも多いので、お早めにご相談ください。